今日も1型糖尿病の、月1度の外来に行ってきました。
もちろんタダで受診して薬も貰える、というわけではありません。
●今回の受診料:約8,600円
●今回の薬代:約3,400円
これでも今回は安い方です。
血液検査の検査項目が多かったりすると、受診料だけで1万円することもありますからね。
そして、この受診料と薬代は、月に1度、“永続的に”発生します。
1型糖尿病は、膵臓の一部細胞(*1)が“死滅”するため、原理的に治らないのです。そのため、毎月毎月(死ぬまで)、1万数千円(*2)を払い続けることになります。
また、1型糖尿病患者の負担は、上記の受診料と薬代だけに止まりません。
この世の大半の人は、自宅内に病院や薬局があるわけではないですよね?
当然、通院にかかる時間=機会費用の損失が発生します。
さらに、受付けを済ませたら、何らかの(あまりに)高度なテクノロジーによって一瞬で診察と処方箋の発行、薬の処方が済むわけでもありませんから、そこでも時間=機会費用の損失が生じます。
1型糖尿病を発症するメカニズムは未だに解明されきってはいないようですが、基本的には「免疫疾患」を起因として発症します。
運動不足や乱れた食生活といった原因で発生するわけではなく、自分の怠惰や不注意でかかる病気の類ではありません。(私も、至って健康で、大きな病気にかかったこともなく、風邪などにさえ滅多にかからないという状態から、急に発症しました(*3))
にも関わらず、受診料、薬代、通院・診察にかかる時間……といった負担が患者に生じるのです。
…おかしくないですか?
ロールズが言う「無知のベール」は、所詮「おとぎ話」でしかないわけですか?
皆さんが急に1型糖尿病を発症しても、不平を感じることもなく、一切文句は言わず、甘んじて粛々と負担をし続けますか?
皆さんの子どもが発症したら、彼ら・彼女らに健常者には生じない負担を一生かけ続けることを良しとしますか?
「そうは言っても、何からの補償があるんでしょ?」と思う方もいるかもしれません。
……実は、あるんです。
“一定の条件”を満たせば、障害年金が支給されます。
では、その条件とは、どのようなものでしょうか。
「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第1章第15節「代謝疾患による障害」では、以下のように記されています(一部省略)。
必要なインスリン治療を行ってもなお血糖のコントロールが困難なもので、次のいずれかに該当するものを3級と認定する。
ア 内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で、空腹時又は随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもので、かつ、一般状態区分表のウ又はイに該当するものイ 意識障害により自己回復ができない重症低血糖の所見が平均して月1回以上あるもので、かつ、一般状態区分表のウ又はイに該当するもの
ウ インスリン治療中に糖尿病ケトアシドーシス又は高血糖高浸透圧症候群による入院が年1回以上あるもので、かつ、一般状態区分表のウ又はイに該当するもの
「一般区分表」は以下の通り。
…要は、「1型糖尿病患者だけど、頑張って血糖コントロールをして、健常者と変わらない生活を送っているよ!」という人は対象に“なりません”。
阪神の岩田稔投手も1型糖尿病のようですが、彼は障害年金を貰えない典型例でしょう(そもそも必要ないかもしれませんが)。
1型糖尿病である“だけ”では足りないのですね。
「金銭や時間の負担が発生していても、現に健康であるなら補償など出ませんよ」という制度なわけです。
もちろん、この障害年金以外に補償をしてくれる機関などがあれば、別に構わないわけですが……そのような機関はありません。
さらに、1型糖尿病は障害者手帳の発行対象にもならないので、就職などの際に下駄を履かせてもらうこともできません。
そのため、基本的には、1型糖尿病患者は「ただ障害を持っているだけ」という状態で、就職活動などをしなければなりません。
頑張って血糖コントロールなどをして、それが上手くいっている(*4)人は、ただただ健常者には発生しない負担を負い続けるのです。
補償が出るのは、血糖コントロールなど上手くいかなくなったとき、そして、合併症(*5)が出たときなのです。
しかも、1型糖尿患者への障害年金の打ち切りが、最近話題になりましたよね。
障害年金の支給対象になっても、いつ打ち切られるか分からず、支給対象になること自体も難しくなっていく……そんなことが今後起きるのかもしれません。
……これでも、1型糖尿病患者の扱いは「おかしくない」と思いますか?
もしそうであれば、貴方と貴方の家族が“自分の怠惰や不注意によらずに”1型糖尿病を発症した際、不平を感じることもなく、一切文句は言わず、甘んじて粛々と負担をし続けてくださいね。
私はもう、うんざりです(*6)。
●関連記事
*1. ランゲルハンス島のβ細胞。インスリンを分泌する。高校の「生物Ⅰ」などでも習いますね。
*2. 合併症などが出れば、さらに大きな額になります。
*3. 個人的な感覚としては、「歩道を歩いていたら急に車が突っ込んできた」という状況よりも酷い。「家でくつろいでいたら、突然トラックが突っ込んできた」くらいの状況です。
*4. 頑張ってもコントロールしきれない人もいますので、その辺りは誤解なきようにお願いします。
*5. 糖尿病の典型的な合併症は、網膜症→失明、腎症→人工透析、神経障害→足の指などの壊死。他にも、日常的に血管にダメージを受けるため、脳梗塞、心筋梗塞などを誘引する。
*6. 余談。私の場合は、血糖のコントロールなどがうまくいかなくなっても、障害年金の受給対象にはなりません。
というのも、1型糖尿病を発症した際、私は国民年金を払っておらず、免除等の申請もしていなかったのです。その直前の期間は免除の申請をしていたのに、まさにその頃だけ、空白期間になっていたのです。障害発生時が空白期間になっている場合、国民年金の後納制度を使っても、障害年金の受給対象にはなりません。そのため、いくら血糖のコントロールなどが悪くなっても、障害者年金は受給できないわけですね。
しかし、1型糖尿病は、“自分の怠惰や不注意によってなるわけではない”病気であるにも関わらず、年金を後納したとしても障害年金の受給対象にならないというのは、おかしくないでしょうか? 民間の保険ならまだしも、公的な保険制度でそのような扱いをされるのは、正直納得はできません。
しかも、私は(健常者と比較して)長くは生きられないでしょうから、いま障害年金を受給できないのならば、国民年金を払い続けることで得られるメリットというのは、どんどん小さくなってしまいます。しかしそれでも、皆さんと同じ額を払うことを強制されるんですよね。これも、いや、こちらの方が納得できません。健康保険料を支払う意欲は湧いても、年金を支払い続ける意欲は湧きません。
合併症が出れば補償される? 果たして、それまで生きられるんでしょうかねぇ。毎月1万円以上負担して、血糖のコントロールに日々気をつかって、健常者と同じ土俵で戦って……これをあと何年続ければいいんですかね。その先に、何か“良いこと”があるんですかね。。